相続税対策。実家の相続は、これしかない。小規模宅地等の特例を貸付事業用宅地に適用して相続税評価額を大幅に引き下げ可能。ただし適用要件は要注意!
小規模宅地等の特例とは
被相続人(亡くなった人)が自宅や事業に使用していた宅地等は、残された家族にとって生活の基盤であり、これらの財産を評価額そのままで相続税の計算をすると高額になり自宅や事業用不動産を売却しなければ相続税を支払えない事態が予想されます。
そのため、一定の要件を満たす宅地等について最大80%評価額を下げて、配偶者等残された家族がその宅地の利用を続けられるように創設された制度です。
貸付事業用宅地とは
現在の超高齢社会においては、被相続人が70~90代であれば、子供世代の相続人は50~70代であり独立して持ち家に住んでいるケースがほとんどであり被相続人との同居を前提とする小規模宅地等の特例は使えない事になります。
ここで、何も手を打たないと、実家の相続は、相続税の負担が増すだけでなく、空き家となって不良債権化するリスクがあります。
しかし、小規模宅地等の特例は自宅だけでなく、事業用地や賃貸住宅の土地にも適用されます。これが貸付事業用宅地です。亡くなった人が貸地または貸家など貸付用としていた宅地等に対する特例です。賃貸住宅の場合の減額割合は80%ではなく50%ですが、それでも大きな節税効果があります。
評価減が大きいだけに土地の規模によっては、相続税は払わないで済むというケースもあり得ます。
ただ、相続税対策がうまくいったからと、ここで安心しないでください。賃貸事業が失敗しないように空室対策を中心とする賃貸経営をまだこれから30年以上にわたり頑張って行っていただく必要がある訳ですから!
1「小規模宅地等の特例」の適用要件
現在の社会の実態から言えば、年老いた両親の住む遠く離れた実家を相続しようとしても、ほとんどのケースは子である相続人は持ち家で暮らしていますので、相続税対策の中でも特に有効な小規模宅地等の特例に関してはあきらめておられる50~70代の方が多いと思われます。
しかし、上で述べましたように貸付事業用宅地という伝家の宝刀の手があるのです。
以下、「小規模宅地等の特例」での「貸付事業用宅地」を実家の土地に適用できるための要件及び適用した場合の相続税対策の効果について述べますので、ご自身の相続問題、ご家族の状況をあてはめて画期的な相続対策を目指してください。
小規模宅地等の利用区分と限度面積、減額割合
相続開始前直前の利用区分 要件 限度面積 減額割合
居住用 特定居住用宅地等 330㎡ 80%
貸付事業用 貸付事業用宅地等 200㎡ 50%
小規模宅地等の特例を受けるための要件
1 相続税申告が必要。
2 相続税の申告期限前に売却すると、特例は適用されない。
3 相続時精算課税に係る贈与によって取得した宅地等は適用できない。
2小規模宅地等の特例での貸付事業用宅地の適用要件
1 被相続人の貸付事業の用に供されていた宅地等を相続又は遺贈により取得した被相続人の親族が、被相続人の貸付事業を申告期限までに引き継ぎ、その宅地等を相続税の申告期限までに継続して保有し、且つその貸付事業を営んでいること。
2 取得者について
被相続人の貸付事業の用に供されていた宅地等については、相続または遺贈により取得した被相続人の親族であれば、だれが取得しても小規模宅地等の特例が適用可能です。
3 貸付事業の開始時期
平成30年4月1日以降に新たに貸付事業を開始した宅地等に関しては、3年以内に相続が発生した場合、小規模宅地等の特例を適用できなくなります。したがって相続税対策の必要性を認識されたら、ご両親がお元気なうちから早めに着手すべきでしょう。
3小規模宅地等の特例での貸付事業用宅地の適用による相続税対策の効果を示す事例
事例条件
被相続人 父 (75歳、妻に先立たれ大阪の実家で一人暮らし)
相続人 本人(50歳、一人息子で北海道の電力会社に勤務。札幌市の持ち家で妻と娘1人と3人暮らし)
被相続人の所有財産
現金1000万円
土地300㎡(建ぺい率80%、容積率200%)第2種住居地域(借地権割合70%)
相続税評価額1億円(路線価:33万円/㎡)
建物の固定資産税評価額400万円(実家の建物は築60年という旧耐震基準の建物で地震による倒壊の心配があることと、今後の身体的衰えを考えて、お父様はシニア向けマンションへの引っ越しを検討されている。)
所有財産合計=1億1400万円
課税遺産総額=所有財産合計ー基礎控除
=1億1400万円-(3000万円+600万円×1)
=7800万円
相続税額=7800万円×30%-700万円
=1640万円
以上の相続税対策を打たなかった場合の今後の状態は60年を超える築年数の老朽戸建てにお父様が住み続けられ、お亡くなりになってからは空き家として不良債権化する可能性があることを現時点で容易に推測されます。またこの場合の相続税額は1640万円であり相続する現金とご本人の現預金で払えないことはありません。
しかし、これまで説明してきました小規模宅地等の特例の貸付事業用宅地適用で相続税対策を打てば、お父様は賃貸経営により収益源でシニア向けマンションの家賃等を余裕を持って支払うことができ、万が一お亡くなりになった時には、ご本人は相続税を払わないで賃貸マンションおよびその敷地を単独で相続し、賃貸収益を継承できるという画期的な成果を得られることになります。これこそ親である被相続人、子である相続人のご家族全員に幸福、安泰をもたらす相続税対策・土地活用の理想的な形といえます。
では、どのようなプロセスで画期的な相続税対策の効果が出たのか見ていきたいと思います。
建築プラン(賃貸ワンルームマンション)
構造 軽量鉄骨造3階建
延床面積(住居面積)380㎡
間取り 1LDK×12戸(32㎡)
合計12戸
建築費用
建物本体建築工事費 7900万円(税抜)
付帯工事費(解体、地盤改良、外構) 1000万円(税抜)
工事合計 8900万円(税抜)、9800万円(税込)
諸費用 300万円(税込)
合計 1億100万円(税込)
1年あたりの減価償却費 450万円
(建物7300万円、建物附属設備1700万円)
建物の固定資産評価額 5400万円
家賃収入等
年間家賃収入 979万円(表面利回り9.69%)
空室損失・貸倒損失 50万円
運営費 140万円
NOI 789万円
FCR 7.81%
融資条件
金融機関 地方銀行
借入金額 9600万円
金利 1.0%
借入期間 35年
年間返済額 320万円
ローン定数 3.33%
イールドギャップ 4.49%
収支・キャッシュフロー
税引前CF
=NOI789万円-年間返済額320万円
=469万円
課税所得(1年目)
=NOI789万円ー利息94万円ー減価償却費450万円
=245万円
※ここで減価償却費を申請計上することにより年間450万円×20%=90万円の所得税・住民税の節税効果が出ます。
納税額(1年目)
=245万円×所得税・住民税率(20%)
=49万円
※減価償却費を活用しない場合の納税額139万円
税引後CF(1年目)
=税引前CF469万円ー納税額49万円
=420万円(1年目正味手残り額)
※減価償却費を活用しない場合の正味手残り額330万円
相続税対策の効果
土地
・小規模宅地等の特例の貸付事業用宅地適用による減額(50%)
・貸家建付地による評価減(21%)
200㎡部分まで
200㎡×35万円/㎡
×(1-借地権割合70%×借家権割合30%×賃貸割合100%)
×減額率50%
=2770万円
200㎡を超える部分
100㎡×35万円/㎡
×(1-借地権割合70%×借家権割合30%×賃貸割合100%)
=2770万円
土地評価額=2770万円+2770万円=5540万円(対策前より1億円ー5540万円
=4460万円の節減)
建物
建物評価額
=固定資産評価額5400万円
×(1-借家権割合30%×賃貸割合100%)
=3780万円(5400万円ー3780万円=1620万円の節減)
対策後の課税遺産総額
・金融機関からの借入金は負債として課税遺産総額から控除できる。
対策後の課税遺産総額
=現金500万円+土地5530万円+建物3780万円ー借入金9600万円(負債控除)
=220万円(対策前より1億1400万円ー220万円=1億1180万円の節減)
結局、相続対策を行うことによって相続税の基礎控除額3600万円>課税遺産総額220万円となり相続税はかからないという画期的な成果が得られました。
高齢のご両親から離れた土地で実家の相続問題についてあれこれ考えておられる50~70[代の方々、今回の記事を是非、参考にしてみてください。
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